Optogenetics2017

光操作研究会趣旨

光を使って細胞機能を操作する。オプトジェネティクス(光遺伝学)と呼ばれる、この革新的な技術が生まれた背景には、2つの研究流派の融合があった。藻や古細菌等では、たった一種類のタンパク質で、光エネルギーを細胞の担う信号に変換することが知られている。こういったタンパク質の光受容のメカニズムやエネルギー変換のメカニズムを調べていた生物物理学者たちがいた(Nagel et al., 2002, Science; Kato et al., 2012, Nature)。一方で、脳神経生理学者たちは、神経細胞を電気刺激してその応答を解析するといった研究手法を長年駆使してきたのだが、この手法では多種多様な細胞を同時に刺激してしまうので、どの細胞の活動がどういった機能を持つのかを特定することが困難であり、頭を悩ませていた。この二つを結び付け、特定の細胞種に光感受性分子を発現させ、その細胞種だけを光操作するといった新規な発想が生まれ、最初の論文が出たのが2005-2006年。米国ではスタンフォード大学のKarl Diesseroth(Boyden et al., 2005, Nat Neurosci)、日本では東北大学の八尾寛(Ishizuka et al., 2006, Neurosci Res)らの功績であった。こういった異分野間連携を通してしか生まれない技術革命がある。

我々は、脳科学に留まらず、医学・生物学一般にもたらす光操作技術の限りない可能性にいち早く目をつけ、2009年の時点で最初の「光操作研究会」を愛知県岡崎市の生理学研究所にて開いた。以来、この技術の普及と応用を目指して活動を続けてきており、本研究会で発表のあった日本発の研究が次々と論文に掲載されているのが現状である。本研究会では生物物理学と脳科学の連携に留まらず、さらに広範な新技術との融合を行うことを目標に掲げたい。人生とはまさに一期一会。人との出会いこそが、研究に邁進する原動力となる。本会がそういった出会いと巡り合せを支える一助となれば望外の喜びである。


光操作研究会の歴史

第一回 平成21年度
光を用いた神経活動の操作-操作法開発から神経回路研究への応用-

岡崎カンファレンスセンター、2009/9/3-4
提案代表者:西丸 広史、所内対応者:小泉 周、山中 章弘、田中 謙二

プローブ分子の開発状況、モデル動物への応用の進展具合について報告があった。また一般的に生物系の研究者が苦手とする光刺激に用いるレーザー光源について工学系研究者を招いて基本的原理や取り扱い方法などについての安全講習会を行った。
(参加者 50名)
光操作研究会 2009 website


第二回 平成22年度
神経活動の光操作(行動制御への応用)

岡崎カンファレンスセンター、2010/9/9-10
提案代表者:松崎 政紀、所内対応者:山中 章弘

線虫、ハエ、ゼブラフィッシュ、マウス、サルにおけるオプトジェネティクスの現状、その成功例の紹介があった。また、最新の顕微鏡装置および光照射装置の紹介も行った。
(参加者 84名)
光操作研究会 2010 PDF file


第三回 平成23年度
神経活動の光操作(行動制御への応用)

岡崎カンファレンスセンター 2011/9/29-30
提案代表者:尾藤 晴彦、所内対応者:小泉 周、田中 謙二

光操作を行うのに必要な技術光操作技術の神経系での応用だけで無く、骨、免疫組織などの末梢組織への応用の可能性についても議論した。最新の光照射装置の紹介を行った。
(参加者 150名)
光操作研究会 2011 PDF file


第四回 平成24年度
動作原理の理解と行動制御への応用

岡崎カンファレンスセンター 2012/9/27-28
当番幹事:能瀬 聡直、山中 章弘

ロドプシン類の構造からその機能理解を行っている生物物理研究をとりあげ、ChR2の構造からその機能・動作原理を読み解き、各種変異体機能の性質を理解した。これまでの研究会で発表のあった日本発の研究が、Nature誌2報、Cell Reports誌1報に掲載されたことが報告された。
(参加者 160名)
光操作研究会 2012 website


第五回 平成25年度
国際シンポジウム「Optogenetics 2013」

慶應義塾大学 三田キャンパス 2013/9/26-27
当番幹事:田中 謙二

オプトジェネティクスの基盤となる分子、チャネルロドプシンの発見者 Peter Hegemann(フンボルト大学、ドイツ)、チャネルロドプシンをはじめて脳研究へ応用した研究者 Karl Deisseroth(スタンフォード大学、米国)を Keynote speaker として海外から招き、これに新進気鋭の研究者数名を加え、例年以上の活発な議論を行う国際シンポジウムとした。本研究会で発表のあった日本発の研究、PNAS誌1報他。
(参加者 150名)
光操作研究会 2013 website


第六回 平成26年度
光操作研究会 in 東北大学2014

東北大学 星陵キャンパス 2014/8/18-25
当番幹事:松井 広

本会では、光で生理的機能を操作するオプトジェネティクス技術に加えて、コネクトミクスなどの形態学的に脳回路を同定していく試みに関しても取り上げた。さらに、実際の実験現場を若い学生や研究者に体験してもらうことを考えて、両技術の技術検討会も合わせて開催した。オプトジェネティクス技術発祥の地のひとつである仙台にて開催する記念すべき会。本研究会で発表のあった日本発の研究、Neuron誌1報他。
(参加者 138名)
光操作研究会 2014 website


第七回 平成27年度
国際シンポジウム「神経回路と神経修飾」

東京医科歯科大学 鈴木章夫記念講堂 2015/12/4-5
当番幹事:山中 章弘、坂田 秀三

神経細胞たちのコミュニケーションからどのように適応的な行動が生み出されるか?この問いは神経科学において最も重要な問題の一つである。光遺伝学を代表とする様々な革新的な技術の開発により、神経科学の進展は近年目覚ましいが、解決すべき問題は依然山積である。この国際シンポジウムでは、日本内外で活躍する研究者たち-若手からノーベル賞受賞者まで-を集め、システムレベルで脳を研究するための方向性について議論した。
(参加者 300名)
光操作研究会 2015 website


第八回 平成28年度
光操作研究会@慶應

慶應義塾大学 三田キャンパス 2016/9/29-30
当番幹事:田中 謙二

2013年に引き続き、再び、慶應義塾大学・三田キャンパスに戻ってきた。当番幹事は、田中謙二(慶應義塾大学医学部・精神神経科学教室・情動の制御と治療学研究寄附講座)が務めた。本研究会は、革新脳の後援を受けた。新規光操作プローブ、非興奮性細胞の光操作、脳深部観察の3つをトピックに演者を選んた。いずれの演者からも世界最先端の話しが聞けた。
(参加者 100名)
光操作研究会 2016 website


第九回 平成29年度
光操作研究会@東北大学2017(国際シンポジウム)

東北大学 星陵オーディトリウム 2017/10/21-22
当番幹事:松井 広

2014年の開催から早3年、光操作研究会は、オプトジェネティクス発祥の地、仙台に帰って来た。初日は、海外の先進を担う研究者を招聘し、二日目は、国内の超若手研究者による最新の研究成果を紹介してもらう。また、会場には、オプトジェネティクスをツールとして使いこなす、国内大学院研究室の紹介ブースを設置。大学院進学先を悩む学部学生の皆さん、学振特別研究員(PD)としての移籍先を検討される院生の皆さん、ぜひ、この機会をご活用いただきたい。
(参加者 170名)
光操作研究会 2017 website



世話人

研究会2017開催報告