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東北大学大学院生命科学研究科回路脳機能分野
兼・東北大学大学院医学系研究科回路脳機能分野

アルバム

2024年03月10日 松井

脳科学若手の会 特別講演

第16回脳科学若手の会 春の研究会
日程:2024年3月9日(土) / 10日(日)
講師:
青山 敦 先生(慶應義塾大学)
松井 広 先生(東北大学)



「シータとサン:グリアによる神経調律」
東北大学 大学院生命科学研究科 超回路脳機能分野
松井 広(まつい こう)
生きているマウスの脳から、神経細胞とグリア細胞の活動を記録する技術を確立してから、ある現象が私たちの前に繰り返し浮かび上がった。シータとサンである。脳に電極を挿入すれば、局所フィールド電位が記録できる。これは、多数の神経細胞の電気的な活動が足し合わされたものであり、その波形を観察しても、実は、個々の神経細胞がどのような振る舞いをしているのかは見当もつかない。仕方ないので、人は、これを試しに周波数解析してみたりするのだが、その時、シータ波(5-10 Hz)が観察されることがある。私たちは、レム睡眠時の視床下部、ケンカ解散時の小脳虫部、不安に感じた時の手綱核でシータ波に出会った。神経細胞だけではつまらないので、グリア細胞の活動も同時に計測するためにFRET型蛍光Ca2+センサータンパク質をグリア細胞に発現させてみた。すると、Ca2+を光計測しているつもりが、いつの間にか、pHを計測していた。上記のそれぞれの場面で、グリア細胞の酸性化に出くわした。オプトジェネティクスで有名なChR2とArchT。これは、細胞内を酸性化・アルカリ化するツールである。グリア細胞に発現させたこれらの分子を光刺激すると、シータ波が影響され、マウスの行動が変化した。どうやらグリア細胞の酸(サン)には、神経細胞の奏でる曲(シータ)を調律する役割があるようであった。

※ 本講演で取り上げた主な研究内容:
Tan et al., Neuroscience Research 2024
Asano et al., Neuroscience Research 2023
Ikoma et al., Brain 2023b